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石丸伸二・前市長の主張「真実と認められない」 市議への名誉毀損認め、安芸高田市の敗訴確定 どんな裁判だった?
2025年04月30日 10時40分
#デマ #石丸伸二 #再生の道 #安芸高田市

広島県の安芸高田(あきたかた)市長だった石丸伸二氏からSNSで嘘の内容を投稿され名誉を毀損されたとして、市議会議員の山根温子氏が石丸氏と安芸高田市に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁が石丸氏側の上告を退ける決定を出し、市の敗訴が決まったと報じられた。

2024年の東京都知事選で160万以上の票を獲得した石丸氏の市長時代の行為が発端となった裁判だが、何が争点となりどのような判断が下されたのか。地裁と高裁の判決をもとに一連の経緯をまとめた。

広島県の安芸高田(あきたかた)市長だった石丸伸二氏からSNSで嘘の内容を投稿され名誉を毀損されたとして、市議会議員の山根温子氏が石丸氏と安芸高田市に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁が石丸氏側の上告を退ける決定を出し、市の敗訴が決まったと報じられた。

2024年の東京都知事選で160万以上の票を獲得した石丸氏の市長時代の行為が発端となった裁判だが、何が争点となりどのような判断が下されたのか。地裁と高裁の判決をもとに一連の経緯をまとめた。

●記事のポイント

・市議の山根氏が「議会を敵に回すと政策が通らなくなりますよ」と発言したとする石丸氏の話は真実と認められず、名誉毀損に当たる

・山根氏に関する石丸氏のSNS投稿は「職務上の行為」と認定

・国家賠償法では、石丸氏の行為について損害賠償責任を負うのは石丸氏ではなく安芸高田市

・安芸高田市による山根氏への33万円の支払い命令が確定

● 何が問題となったのか

当時、安芸高田市の市長だった石丸氏は2020年9月25日、市議会の定例会で居眠りをしている議員がいたという旨の投稿をツイッター(現X。以下、判決文に合わせてSNSと表記)にした。

この投稿を受け、9月30日に石丸氏と市議による意見交換会が非公開で行われたという。

その後、石丸氏は10月1日にSNSに次のような投稿をした。

<数名から、議会の批判をするな、選挙前に騒ぐな、事情を補足してやれ、敵に回すなら政策に反対するぞ、と説得?恫喝?あり。これが普通かどうかわかりませんが、実態なのは確かです。>

10月20日には石丸氏は、市議の山根氏(原告)が「議会を敵に回すと政策が通らなくなりますよ」と発言したと報道陣の前で述べ、これが恫喝にあたるという旨の話をした。そして、SNSにも同様の内容を投稿した。

これに対し山根氏は、石丸氏の発言が名誉毀損にあたり、SNSへの投稿が市議会議員選挙の期間中に行われたものもあるため「選挙妨害に当たり違法である」などとして、石丸氏に500万円の損害賠償、そして市長が行った行為の責任は市も負うとして安芸高田市に330万円の損害賠償をそれぞれ求めて提訴した。

●争点となったのは?

裁判では次の5点が争点になった。

(1)石丸氏のSNS投稿は「職務上の行為」か「私的行為」か

(2)石丸氏の発言や投稿が名誉毀損に当たるか

(3)石丸氏の発言やSNS投稿が免責される理由はあるか

(4)石丸氏が山根氏への追及を終えると宣言した後も非難などを行った行為の違法性

(5)山根氏が受けた損害はどの程度か

これらの争点について、広島地裁はどう判断したのか。以下に、それぞれ理由とともに順に見ていく。

●SNS投稿は「職務上の行為」or「私的行為」?

(1)【結論】「職務上の行為」であり、石丸氏は損害賠償責任は負わない

<理由> 石丸氏のSNSアカウントは実名で運営され、プロフィール欄には安芸高田市の市長であることが明記されていたことなどから、「一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすると、市長という立場で、市長の職務の執行として、市議会や市議会議員に関する事項について発信しているものといえる」と判断した。

国家賠償法や判例では、「公務員の職務行為に基づく損害については、国または地方公共団体がその賠償の責に任じ、職務の執行に当たった公務員は個人として被害者にその責任を負担するものではない」とされている。

つまり、SNSへの投稿が石丸氏の市長としての職務上の行為と評価されれば石丸氏は損害賠償責任を負わないこととなり、他方、投稿が石丸氏の個人としての私的行為と評価されれば石丸氏個人が損害賠償責任を負うことになる。

広島地裁は、SNS投稿が市長としての職務行為であると認定し、石丸氏個人への請求を退けた。

●石丸氏の行為は名誉毀損

(2)【結論】名誉毀損に当たる

<理由> 石丸氏の発言やSNS投稿は、「(山根氏が)市議会議員としての素質や適性を欠いた人間であるという、評価を根本から揺るがす事項についての事実摘示および意見」などと認定。

石丸氏の各行為が「自由な意見や批判に晒されるべき政治家の発言などとは一線を画するもの」と判断した。

●石丸氏の発言やSNS投稿は「真実とは認められない」

(3)【結論】免責される理由はなく、石丸氏の発言やSNS投稿は真実でなく違法な行為

<理由> 石丸氏は意見交換会の内容について以下のようなメモを残しており、それをもとに山根氏が「議会を敵に回すと政策が通らなくなりますよ」と発言したと主張した。

「9/30(Wed) 全-T-SNSB?、L-杭、X-対立-政策-敵、M-N・B(省略)」

(*注・・・「T」「L」「M」といった記載について、石丸氏は市議の名前を指すと説明したという。「X」は原告の山根市議を指す)

しかし、このメモは主に単語を羅列したものにとどまっており、「(石丸氏の)独自の解釈や誤った認識が差し込まれている可能性も十分にある」。そして、山根氏も発言を明確に否定していることなどから、石丸氏が主張するような発言を山根氏がしたと認めることはできない。

そして、石丸氏の発言やSNS投稿は山根氏の名誉を毀損するもので、石丸氏が主張するような発言を山根氏がしたという事実はなく、真実と信じるに足りる相当の理由があるとはいえないなどとして、違法な行為であると判断した。

●追及終了宣言後の投稿はどう判断された?

(4)【結論】不法行為ではない

<理由> 石丸氏が追及を終えると終了した後にツイッターへの投稿が高い頻度で行われているとは認められないなどとして、不法行為にあたらない。

●損害賠償の額はいくら?

(5)【結論】慰謝料30万円、弁護士費用3万円

<理由> 石丸氏の発言やSNS投稿は国家賠償法上の違法性が認められ、安芸高田市はこの石丸氏の行為について国賠法上の責任を負う。

これら石丸氏の行為によって山根氏には辞職を求める非難のメールや電話が殺到したり、石丸氏のSNS投稿が山根氏にとって重要な市議選の期間中に行われたりしたことを踏まえて、慰謝料30万円、弁護士費用3万円を認めた。

広島地裁は以上のように判断し、安芸高田市が山根氏に33万円の損害賠償を支払うよう命じる判決を下した。

そして、安芸高田市は控訴したが、広島高裁も1審判決が認定した事実を覆すに足りる証拠がないなどとして広島地裁の判断を支持し、控訴を棄却した。

●争点と地裁・高裁の判断まとめ

争点に対する広島地裁と広島高裁の判断をまとめると、次の表のようになる。

画像タイトル 石丸氏の発信に関する裁判の争点と裁判所の判断

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